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歯周病を放置するとアルツハイマーに?

 

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日本人の成人の80%以上がかかっているといわれる歯周病。その原因菌が作り出す「酪酸」がアルツハイマー病を引き起こす一因になる可能性があるという。日本大学歯学部の落合邦康特任教授(口腔<こうくう>細菌学)らの研究チームが5月12日、福岡市で開かれた日本歯周病学会でラットによる実験結果を発表した。歯周病とアルツハイマー病の関連性については、これまでも指摘されていたが、動物の体の中で歯周病とアルツハイマー病の関連を示唆する現象が起きているのを確かめたのは初めてという。

 

脳の機能が徐々に失われていくアルツハイマー病
アルツハイマー病は認知症の一種で、脳の神経細胞が徐々に死に、脳の機能が失われていく病気だ。国内に約500万人いる認知症患者の6~7割を占めると考えられている。細胞死は記憶や学習に関わる海馬の周辺から始まり、最終的には脳全体に広がる。発症すると、まず、少し前の出来事が思い出せなくなる。そして、時間や場所が分からなくなって、言葉が使えなくなる。仕事や家事など段取りが必要な行動ができなくなり、人の顔や物を見ても判別がつかなくなる。さらに進むと、食事や入浴、着替えもできなくなって寝たきりになる。発症後は平均10年で死に至る。

歯周病菌が作る「酪酸」が酸化ストレスを引き起こす
アルツハイマー病を発症する要因はまだ完全に解明されていないが、考えられている仮説の一つに、体内での酸化反応が組織や細胞などにさまざまな害を与える「酸化ストレス仮説」がある。チームはこれまでの研究で、歯周病の原因菌「ジンジバリス菌」などが作る酪酸が細胞内に取り込まれると、「鉄分子(ヘム)」「過酸化水素」「遊離脂肪酸」が過剰に作り出され、細胞に酸化ストレスを起こして壊してしまうことを明らかにしている。
そこで今回は、酪酸が動物の脳にどのような影響を与えるのかを調べた。健康なラット3匹の歯肉に酪酸を注射。6時間後に、海馬ホルモンの分泌に関わる松果体と下垂体さまざまな高度な活動をつかさどる大脳主に運動機能の調整を行う小脳--について、酸化ストレスの状態などを分析した。

記憶形成に関わる海馬に大きな影響
すると、酪酸を注射したラットは、通常のラットに比べ、全ての部位で平均35~83%も「ヘム」「過酸化水素」「遊離脂肪酸」の濃度が上昇していることが分かった。中でも海馬での上昇率が最も高く、ヘムは平均79%過酸化水素は平均83%遊離脂肪酸は平均81%--濃度が上昇していた。また、細胞の自殺を誘導する酵素「カスパーゼ」の活性を測定すると、海馬で平均87%増加していた。さらに、アルツハイマー病の患者の脳神経細胞内では、物質輸送に関わるたんぱく質「タウ」が異常に蓄積するが、酪酸を注射したラットは通常のラットに比べ、海馬で平均42%もタウの量が増加していた。

歯周病の放置は厳禁
チームは実験結果について、注射した酪酸が血流に乗って脳内に入り込み、さまざまな異常を引き起こしたとみている。歯周病患者では、「歯周ポケット」と呼ばれる歯と歯肉の間から、健康な人の10~20倍も酪酸が検出されるという。落合特任教授は「歯周病巣の酪酸が長期間にわたって脳内に取り込まれれば、アルツハイマー病を引き起こす一因になることは十分に考えられる。歯周病はすぐに生死に関わる病気ではないので放っておく人が多いが、重大な別の病気につながる可能性があることを忘れてはいけない。早めに治療をすべきだ」と指摘する。
チームは今後、歯肉から脳内にどれだけ酪酸が入り込むのかを調べる。また、酪酸を注射した動物がアルツハイマー病を発症するかどうかを、行動分析などで検証する予定だという。

 

毎日新聞 5/27(土) 配信